田口由花インタビュー2021

GallerySeekでは約4年ぶりの個展となる田口由花さん。

自身の心境の変化や新作についてお話をお聞きしました!


今回の個展のテーマを教えてください。

今回、展示を2会期に分けて前半を「宵」、後半を「明」とすることにしました。

一日の間で朝と夜があるように、時間と共に様々な事象が、移ろい流れる。

生きていく上で「変わり続ける」ことは自然であり、そこに様々な感情があったとしても、それ自体もまた流れ、変化していく。

そんな「移ろい」そのものの力強さを、展示を通して表現したいと思いました。

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前期「宵」会場風景

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前期「明」会場風景

 

こちらのテーマに至ったのは何故でしょうか。

実はテーマについてのアイデアはなかなか浮かびませんでしたが、今回のメインで描いた80号の下図を描き始めたときに、個展全体のアイデアも決まりました。

昨年コロナウイルスの流行もあり、自分自身も影響を受けたことや、近年の自身の作品の取り組みへの変化も含めると「夜明け」は今回の展示のテーマになりました。

展示期間を2会期に分けることはあらかじめ決まっていたので、前期と後期でそれを表現しようと思いました。

春光7  未来着物下図
「春光」1455×730mm          下図

絹、水干絵の具、岩絵具


80号の作品「春光」は、初めて着物の人物を描いた作品です。

着付けの先生に手伝っていただいて、モデルさんに着付けました。

淡い牡丹が描かれたこの着物をいつか描きたいと思っていたので、ようやく叶いました。


前回の個展から、作品や心境の変化はありましたか?

2年前から絹本と並行して、また和紙を使って描くようになりました。

というのも、絹本は裏打ちの時に縦糸が縮んでしまうので、人物を描くときは特にその数ミリの変化が気になっていたからです。

和紙の作品は裏彩色もできる薄い和紙を使って描いています。最初は滲みがコントロールできないため、扱い辛さがありましたが、それもまた面白いかと思い、滲みを生かすテーマで描いたり、あえて滲みをそのままにしたりしています。

 

前期・「宵」の作品「百夜の水曜」という作品は、見え方の多様さについての「気付き」をテーマにして描いたのだとか。

学部生時代から「月」は作品の中によく取り入れていたのですが、それは空間を表現するための一つの要素だったからだと思います。

最近では、月が在る事実が変わらないのに、状況や見る角度によって見え方が変わることや、それが常に変動することが、世の中や人間の生き方に似ているものがあると感じるようになりました。

それを最初に思った時は、状況や角度によって見え方が変わる点が石膏デッサンに似ていると思って、「人生は石膏デッサン!」と思ったのですが、それは実は石膏デッサンでも月でなくてもよくて、同じ時間軸の中にあれば何にでも当てはまる。

きっかけはそういった気付きだったと思います。
田口由花白夜の水曜
「白夜の水曜」F20 

絹、水干絵の具、岩絵具、金箔

 

田口さんが人物を描く時にこだわっている部分を教えてください。

人物画を描くとき、顔には表情があるものなのでその点は下図の段階から意識しています。表情があるものには感情が伴うと思うので、特に慎重になる部分です。


制作はどのように進めていくのでしょうか?

まず初めは素描をすることから始まります。

素描をもとに作品のイメージを組み立てていき、作品のイメージが固まったら、絹か和紙かを選び、本画の制作に入ります。

絹の場合には、作品のサイズに合わせて木枠を組み立てるところから始まります。


画像1 未来着物下図

左側が「素描」で、右側が「下図」です。

 

「素描」はモチーフを観察し、理解し、記録するために行っています。花の場合も人物の場合も基本的に描く時間が限られているので、必要な情報を取捨選択しながら描いています。

「下図」は、素描から必要な線を転写、それを構成し、作品に必要な情報を描き加えます。

本画に入ると大きな修正はできないので、下図の時点で全体の構図を最終的に調整するようにしています。


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彩色に関しては、日本画の場合は使える色が限られるので、岩絵具を画面に乗せる順番や、粒子の大きさなどを考えつつ、作業を組み立てていきます。

同じ絵の具でも例えば、濃い絵の具を1度で塗った色と、薄めた絵の具を何度も塗り重ねて濃くした色では見え方が異なると思います。

また、粒子の大きさが異なる岩絵具の場合、皿の中で沈殿の速度が異なるので混色が難しい場合があります。

そういった場合も塗り重ねで色を合わせていきます。

青
「青雨」600×200mm

絹、水干絵の具、岩絵具

 

後期・「明」の作品は桜の作品が多いですね。

桜はもちろん花自体も美しいですが、花弁が風に散る様も好きです。

儚いイメージの花だと思いますが、今回の「満つ」のように散る間際にもう新芽が芽生えているところに、生命や巡る季節の力強さを感じる花でもあります。
満つ
「満つ」 4F 

和紙、水干絵の具、岩絵具、金箔

 

桜はまず咲いている期間が短いのと、満開になった途端に散り始めるので、取材のタイミングが難しいです。

あと春は、風が強い、暑かったり寒かったりと、取材の環境の条件が厳しいのでいつも苦戦しています。

花弁が多く、ひと枝を描くのにも時間がかかるので毎年少しずつ素描を描きためています。


今後新たに挑戦したいことはありますか?

絹本や和紙以外にも、作品に合う基底材を探していきたいと思っています。
もしくは将来的には自分で作ってみたいと思っています。

 

最後に個展を見て下さる皆さまに一言お願いします。

是非よろしくお願いします!!

 

田口さん、ありがとうございました!

個展は明日3月28日(日)まで開催いたします。

この機会に是非ご高覧くださいませ♪

 

前回のインタビューはこちらから

田口由花作家インタビュー : Gallery Seek Official Blog(livedoor.jp)

 

「田口由花 個展宵・明
3
15()328()

 

〇前半「宵」315日~21

〇後半「明」322日~28


会場:Gallery Seek
出品作家:田口由花
作家来場日:321()22() 各日13001700

日本画特有の、柔らかでしっとりした質感を生かし、人・動物・植物のあるがままの美しさ、生命の息吹をを描く田口由花。岐阜という自然豊かな地で生まれ育った彼女の感性は作品にも生かされており、それらの作品作りは季節ごとの綿密な素描によって完成されます。時には何年もかけて対象を温め、描いていくこともあるのだとか。今回の個展では、展示を前期「宵」、後期「明」としてご紹介いたします。一日の間で朝と夜があるように、時間と共に様々な事象が、移ろい流れる。生きていく上で「変わり続ける」ことは自然であり、そこに悲しみがあったとしても、それ自体もまた流れ、変化していく。そんな「移ろい」そのものの力強さを展示を通して表現しています。自分らしい日本画を常に追求する若手作家の作品群を是非お楽しみくださいませ。