8月21日(金)より個展を開催される原田武先生。
お話をお聞きしました!
–今回の個展のテーマを教えてください。
金属による様々な表現と懐かしき視点です。
サブタイトルでもある「郷愁」は作品作りのテーマでもある「懐かしく思う気持ち」の意味でつけました。
子供の頃に動植物を見て感じたような何気ない発見や喜びを、作品を通す事によって感じてもらえたら嬉しいです。
-Gallery Seekでは約3年ぶりの個展となりますが、作品の変化はありましたか。
今回の個展では香炉や箱物等、用がある物にモチーフを落とし込んだ作品が増えたと思います。
技術的にも出来ることの幅が広がってきて、3年前には出来ていなかった細部や表現を見て頂ければと思います。用があるものに落とし込むためには、それぞれの部品やパーツの精度が求められます。
それを維持したまま精度をあげることは難しいのですが、以前よりも精度を上げて制作出来るようになり、より複雑な形状の表現も出来るようになったと感じています。
また、箱物が例えばレンガになっていたり、蓋の部分がタンポポになっていたりと、一見“用がある物”とは気づかない作品が多いです。
表現として用の部分を全面に出した形にはしたくなかったのと、“用がある物”だと気づいて頂いた時に、楽しさを感じて頂けたら嬉しいです。
「季 〜蒲公英と蜥蜴図三足香炉〜」 H130×130×130mm 銀、真鍮、銅、錫、色箔
–原田先生の作品は、小動物や例えば葉の葉脈まで、本物なのかと見紛うぐらい精巧に作られていますが昔からこのような作風だったのでしょうか。
初期はもう少し抽象的な作品を作っていました。
自分の中では写実的であることに特に重きは置いてません。
作品を作る時、明確なビジョンが湧きあがってくるのですが、それはかつての記憶に由来していて、映像としてではなく静止したものとして浮かんできます。
記憶をたぐり寄せる作業なので自然と写実的になっていったのかと。
–学部4年生時の作品との事ですがまた雰囲気が違いますね。
当時と現在では制作する上での意識はどんな風に変わりましたか?
そうですね。当時と今では根本的な「テーマ」と「作りたいものを作っている」という部分は変わりませんが、作品を通して観た方に伝わるかどうかを意識して制作するようになったと思います。
単純に分かりやすいかとか…。
–作品のインスピレーションはどこから生まれてきますか。
普段生活している中で見られる風景や何気なく見つけて興味を持ったものをモチーフにしています。
子供の頃から自然に囲まれた場所で育ち、現在も大学があった広島県の安芸高田市に住んでいます。
緑豊かな大地で、江の川をはじめとした水資源にも恵まれ、人々は水田をつくりながら自然と共生してきたそうです。
家や家の周りにはカエルやヤモリなどがいて、作品のモデルには困りません(笑)
–モチーフは数ある動物の中でどのように絞っていったのでしょうか。
子供の頃はよく一人で虫取り網を持って、外で遊んでいた子供でした。
その時に出会った動植物が多いです。蝶やトンボなんかはよく捕まえてましたね。
捕まえた虫は飼ったりもしていました。餌をあげて観察したりもしていました。
大人になってから改めて虫等を見ると、子供の時には知らなかった生物の知識も増えて観察する楽しみ方も変わったと思います。
–なるほど。今回の出品作では梅の花に蟻がちょこんといる壁掛けや、クロワッサンの上にヒヨコが乗っているなど可愛らしい作品も多いですね。
「Mybread」 H95×130×70mm 銀、銅、真鍮、色箔
現実にありそうでない感じの雰囲気を取り入れてみました。
クロワッサンの部分は事前に粘土で形を作ってイメージを固めます。
「蟻と梅花」はエッチング(化学薬品などの腐食作用を利用した塑形ないし表面加工の技法)で表現しています。
銅版画でも見られる技法ですね。
今まで実験的に作ってはいたのですが、作品にするのは今回が初めてです。
「蟻と梅花」 H200×260×60mm 銅、真鍮、金箔
-今回の出品作の中で一番見てほしい作品を教えてください。
景と珠です。
特に「珠」は錆びたり汚れていたりする身近な建築物のテクスチャーを球体に落とし込みました。
「球」 H330×300×300mm 純銀、真鍮、ステンレス、錫、色箔
–銀や錫などの腐食は金属ならではの表現だと思うのですが、これらを取り入れるようになったきっかけは?
きっかけとかは特に無く、金属素材を極めていくうちに自分の伝えたいテーマと合致していった感じです。
子供の頃の記憶を映像ではなく「静止したもの」として思い浮かべそれを再構築しています。
でも子供の頃の記憶というのは曖昧で、大人になるにつれ輪郭がぼやけていきます。
そんな記憶のイメージによる風化を表現しています。
「景」H190×180×110mm 銅、銀、真鍮、錫、金箔、色箔
–なるほど。使用される金属は、どのように決めていくのですか?
先程お話にも出ていましたが、単純に色が変えられるかどうかですね。
金属の色合いをそのまま生かしている部分もあるのですが、金属の種類によって使える薬品も変わってきます。どうしても使えない時はそれぞれのパーツを別々で作って繋ぎ合わせる事もします。
バーナーの上で器の中に錫を転がらせて炙る作業。
薬品だけではなく火で炙ることによって金属には色を付けられます。
(220度の状態をキープしないと鈍ってしまうのだとか)
–最後に個展を見て下さる皆さまに一言お願いします。
私は金属素材を活かすことを意識し、色も金属素材の色や化学変化による色によって表現しています。
様々な金属によって表現された生き物や風景を楽しんで頂ければ嬉しいです。
原田先生、ありがとうございました!
個展は8月30日(日)まで開催いたします。是非ご高覧くださいませ。
前回のインタビューはこちらから↓
http://blog.livedoor.jp/soratobu_penguin/archives/8759221.html
「原田武 金属造形展 -郷愁-」
8月21日(金)~8月30日(日)
会場:Gallery Seek
出品作家:原田武
金属造形作家、原田武。昆虫や植物など身近なものをモチーフに作品を制作しています。幼少期に感じた記憶を昇華した作品たちは、どこか懐かしさを感じながらも、技術の精巧さに息をのまれます。近年、台湾や香港など国内外でも精力的に発表している作家の新作を是非ご高覧くださませ。