約4年ぶりのGallery Seekでの個展を開催される小林英且先生。
お話をお聞きしました!
–約4年ぶりの個展ですが、以前と比べて心境の変化、作品の変化はございましたか?
今回の鉛筆画作品の展示は、美術の道を志した時に始めた鉛筆デッサンを思い出し、改めて原点回帰をして表現する事で、新たな発見をしたいと思いました。
また、鉛筆画で使用している鉛筆と紙は、誰もが使用した事がある身近な用具でもあります。
その鉛筆で描く事で、今まであまり美術に興味が無かった方々へ、興味を持って頂けたらと思っています。
–今回の個展のテーマを教えてください。
サブタイトルにある「モノクローム」をテーマに、全て鉛筆による表現をしています。
鉛筆の黒色の濃淡幅を使って描く事で、より深くモチーフへ潜り、理解と発見を試みる挑戦をしています。
「葡萄」F6
–以前(4年前)のインタビューで鉛筆画とミクストメディア作品について下記のようにお答え
いただいております。
—–引用——————————————————————
鉛筆画というと、一般的にデッサンやスケッチ、タブロー(完成作品)の為の習作
といったイメージが強いと思いますが、私の鉛筆画はタブローとして制作しています。
色彩がないという事で表現手段が1つ減りますが、その分鑑賞者に自由にイメージを
膨らませてみて頂ける作品だと思っています。
一方ミクストメディア作品では、色彩同士を重ねたり塗り直してみたりと、フットワークが軽く、そのため偶然できた表情が思いもよらぬ効果を発揮する場合があります。
—————————————————————————-
以降、鉛筆画、ミクストメディアのそれぞれの魅力について新たな発見などありましたか?
鉛筆画では白色は紙色しか無く、この紙色の白を基準にして鉛筆の黒色の濃淡を生かします。
僕の場合、消し具はほぼ使用せず、コツコツと画面を描き込んでいきます。
色で塗るよりはタッチで見せていて、遠目から見ると分からないのですが、近くで見ると線の表情が浮かび上がります。
一つ一つを刻印していくようなイメージというのでしょうか…。
布や擦筆(さっぴつ)で部分的にぼかすこともします。
※擦筆:紙、革、フェルトなどを細長く巻くなどして鉛筆状に形を作ったドローイング用具
点から線になり、色面となっていく。そんな行程を踏んでいく事はミクストメディアとはまた違った作業でもあり面白いです。
鉛筆画の時は、心なしか神経が研ぎ澄まされ、より集中力が増している気がします。
それはあたかも海の水面から深海の奥深くまで潜るダイバーの心境です。
お目当ての色が見つかるまで、少しずつ何層もの色の重ねがあります。
光の届かない深層で悩み苦しむ事もあります。
そんな中でも鉛筆の芯先にかかる筆圧の加減や、芯の尖り具合でも出せる色が変わる発見があり、問題の打開へ繋がる事がありました。
鉛筆画は元々描いていましたが、今回のようにそれだけをメインに集中して制作する機会がなかったので、鉛筆という画材への興味も更に深まりました。
–元々、鉛筆画作品はいつ頃から発表されていたのでしょうか?
はっきりといつからかは覚えがないのですが、モノトーンが昔から好きでした。
大学の卒業制作もそれに近いものを制作しました。
「記憶の落とし物」 F150号大壁面 ミクストメディア
幼少期に触れあった生き物への記憶や命を、忘れない様に「化石化」して形に残し、少しでも長く留めておきたいと願った作品です。
石膏を支持体に使用し、描くというよりは彫るイメージで制作しました。
東京藝術大学の卒業制作作品「記憶の落とし物」は、最高賞の一つであるデザイン賞を頂きました。
–表現方法(鉛筆画とミクストメディア)はモチーフによって変えているのでしょうか。
モチーフによって鉛筆画・ミクストメディアとを変える意識はあまりありません。
どちらかと言うと、表現方法にバイオリズムみたいなものがある様です。
興味が色彩に向かう時もあれば、モノトーンに戻ったりと…時期によって変化します。
鉛筆とミクストメディアを融合させた作品もありますし…。
しかし、今回の制作を通して感じた事は鉛筆ってまだ色々できるなあと(笑)
先程お話したような新たな発見があり、無限の可能性を感じました。
モノトーンといえばペンや墨もありますが、僕が鉛筆にこだわるのは最初にお話していたように、誰もが使用した事のある身近な用具だからなのだと思います。
大学や専門学校などでデッサン表現を教えてきた事も関係していますが、鉛筆はこんなに色々な表現ができるんだよという事を伝えていきたいです。
–小林先生の作品にはいくつかシリーズがありますが、今回の個展にもシリーズ作品はありますか?
今回も花・女性・静物の作品を展示しています。
形や色、ふと魅せる表情などが引っ掛かった時、好奇心と興味をもとに制作します。
シリーズを増やしていく事は、現在は考えておらず、今回の制作を通して感じたのですが、1つの作品に時間をかけて深く関わりたいなと思いました。
–小林先生といえば、幻想的な女性像も印象的ですが今回の出品作「Gaia」F30はどのようなイメージで制作されたのでしょうか?
「Gaia」はギリシャ神話に登場する最古の女神であり、大地(地球)の象徴とされています。
女神の寝姿に、内包する力強さを表現できたらと思い制作しました。
実は髪の毛には凹凸、背景には星座が溶け込んでいるなど、近くで見て頂く事ではじめて解る表現も含まれています。
「Gaia」F30
現在も以前と変わらずモデルさんは使ったり使わなかったりですが、気に入ったポーズや構図は何回か繰り返し描く事があります。
寝姿や横顔が多いのはそれが関係するのかもしれません。
–最後に、作品を観に来て下さる皆様に一言お願いいたします。
鉛筆画作品のみ個展は初の試みですが、遠目の印象と、近づいて見た印象など、作品を鑑賞する距離でも楽しめると思います。
もしかしたら見ている内にカラー(色味)が見えるかも知れません。
あなたの身近にもある鉛筆で描く、小林英且のモノクロームの世界をどうぞお楽しみ下さい。
小林先生、ありがとうございました!
個展は11月20日(金)〜11月29日(日)まで開催いたします。
20日(金)・21日(土)は作家さんも来場されます。
この機会に是非ご高覧くださいませ。
以前のインタビューはこちら↓
http://blog.livedoor.jp/soratobu_penguin/archives/8662206.html
「小林英且 個展 -モノクローム-」
11月20日(金)~11月29日(日)
会場:Gallery Seek
出品作家:小林英且
作家来場日:11月20日(金)・21日(土)
東京藝術大学デザイン科出身で、画家・中島千波にも師事した小林英且。女性や動物を中心に好奇心を源とし、記憶や時間など、眼に見えない事象に迫る作品を制作しています。それらの作品はデザインを勉強してきた者ならではの、装飾性に富んだ美しい世界観が広がります。4年ぶりとなる今回の個展では、サブタイトルにある「モノクローム」をテーマに、全て鉛筆による表現で展示いたします。誰もが使用した事のある身近な用具である鉛筆。彼にとって、鉛筆は美術の道を志した時に始めたデッサンを想い起こさせる存在でした。改めて原点回帰をして表現する事で、新たな発見をしたいという想いが、今回の個展には込められています。海の水面から深海の奥深くまで潜るダイバーのように、同じモノクロームの世界でありながら、目当ての色が見つかるまで、少しずつ何層もの色を重ねていきます。そんな作品たちをずっと眺めていると、ないはずの色が見えてくるかもしれません。新作10余点をどうぞお楽しみくださいませ。