■制作コンセプト
自然の理を見ること、そして空間に潜む質量を追求しています。
瑞々しい生命力から朽ちていく中に漂うものまで、描きたくなる動機はたくさんあります。
本質を見抜く洞察力から始まり、その世界を絵具で表現する。
見つめているものが現物ならその質量、写真なら写真の質量がキャンバスに描かれるわけなので、やはり自分は実際の、ここにある空間を追いかけたい。たとえ細部まで描くのが難しくても3次元をキャンバスに具現化することにスリルを感じます。
観察するときの眼の使い方は、何気なく見ている時とはまるで別物で、肉眼だと自在にピント合わせも可能ですし、対象物により深く関わっている気がします。
写実と言っても人それぞれ違っていて、写真でしかできない表現と、肉眼で見るリアリティの奥深さに惹き付けられています。いつでも自然から受け取る姿勢は変わらず、対象物それぞれの個を見つめていきたい。
何気なく転がっている現実の中は無駄のない生々しさで溢れていて、それを出来る限り拾い上げるために描きます。
■影響を受けた作家
モランディは絵を発表するようになった後に周囲の人から言われたことがあります。それからは制作時に少なからず頭を過る存在になりました。ワイエスの風景画などは自身の追求している自然の表情に近く感じます。子供の頃よく釣りに行った場所に似ていて、荒涼とした冬枯れの空気が鼻奥を刺激する様子まで伝わってくるようです。他にはコローやカリエールも好みな画家です。影響を受けた作家は少なからずいますが、ふと目にした作品が思わぬ作用をもたらすことがよくあります。知らなかったドアを開けてくれるような感覚を大切にしたいです。
■傷跡や汚れは時の移ろいの一部
果物一つとっても、そこに時の移ろいが感じられるか、若さと老いが同居しているか、いつも気をつけています。個人的には風景画以外写真は使用しませんので自身の2つの肉眼で対象物との距離を埋めたいと制作しています。今も子供の時から何も変わっていません。眼で懸命に見て、触れて、感じる。自分にはそれしかなく、それで十分に思います。
傷跡や汚れは時間の波に揉まれてできるものなので、その喩えの一つという意図で描き込んでいます。偶然できた痕跡が一番重要ですが、すべてが都合よい箇所に現れるはずもありません。自然に忠実でありたい一方、そこは絵描きとして必要な演出だと思っています。
■制作手順
一般的な制作手順になります。
キャンバスに市販の地塗絵具を施して、乾燥後にカマイユで下描きします。その後はネオペインティングオイルを軸にいくつかのオイルを使い分けながらの着色しつつ形を追っていきます。
構図については何度も配置を変え時間を置いてからまた見直したり、納得するまでこれを繰り返します。結局最後は自身の経験を頼りにしている部分が大きいですね。数々の失敗を重ねて今に至ります。構想していた内容がガラッと変わる結末に自分が一番驚くことがよくあります。偶然性に道を譲ること、自身の発想はきっかけに過ぎないと、常日頃から言い聞かせています。
■個展テーマについて
身近な物事の機微(ニュアンス)に触れ、分かったことや感動したことをどのように絵具で表現できるか。今回のサブタイトル「ニュアンスの小窓」はこのような意図で名付けました。個展の度にテーマが大きく変わることはありませんが、前回より現実を重視して、よりシンプルな内容に仕上がったかなと思います。過剰と感じたものは可能な限り削ぎ取り、そのことで生じる緊張感を追求していきたいです。
青栁先生、ありがとうございました!
個展は1月20日(木)~1月26日(水)まで開催しております。
1月22日(土)・23日(日) 各日13:00~17:00は青栁先生もご来場予定です!
この機会に是非ご高覧くださいませ。
「青栁友也 油彩画展 ~ニュアンスの小窓~」
1月20日(木)~1月26日(水)
会場:東武百貨店池袋店 6階1番地 アートギャラリー
出品作家:青栁友也
作家来場:1月22日(土)・23日(日) 各日13:00~17:00
「時間をかけて実物と対峙することを恐れずに続けていきたい。静止画ではなく、移ろいを描写するための写実でありたい」と語る青栁友也。瑞々しい生命力から、朽ちていく中に漂うものまで、対象物それぞれの個を見つめており、何気なく転がっている現実の中に溢れている無駄のない生々しさをできる限り拾い上げて描写しています。時間の波に揉まれてできる傷跡や汚れを画面に描くことで、そこに混在する若さと老い・時の移ろいを演出し、味のある雰囲気を醸し出します。
今回の個展テーマは「ニュアンスの小窓」。身近な物事の機微(ニュアンス)に触れ、分かったことや感動したことをどのように絵具で表現できるか。過剰と感じたものは可能な限り削ぎ取り、よりシンプルな表現にすることで生じる緊張感を追求していきます。